死後経過時間の推定法 Isomegalen図

 最初に注目するのはクロバエ科、ニクバエ科。これらのハエは冬を除き死後直後に産卵に来る(岸上、1927)ので、採集したハエの幼虫や蛹について産卵からの成長時間を求められれば、これを死後経過時間の最小値(PMImin)と判断でき、おおよその死亡日時を特定できる。

 死後の経過した時間や時期、得られる情報によりPMIの推定方法はいくつかあるが、まず幼虫の体長からPMIの推定方法を紹介する。ウジを一定温度で育て、幼虫の体長と時間の関係が調べられており、これを用いて死体から得られたウジの体長と死亡現場の平均気温から死後経過時間を求める事ができる。ただし、大きくなると採食をやめて徘徊し成長が止まる離散期に入るので、この方法は使えるのはその前の摂食期に限られる。

 最近用いられてるのがIsomegalen図(Reiter, 1984, Grassberger & Reiter,2001, Guoliang他,2019, Zhangほか, 2019)。縦軸が気温、横軸が孵化からの時間、各線の上の数字が幼虫の体長で、体長の等高線が図示されている。この線は、その体長(平均または最大)に達するまでの時間を各温度プロットし、各点をつないで作図している。平均気温の変化があまり変化ない場合,たとえば±2度なら、幼虫採取までの数日の平均気温の平均値と幼虫の体長から単純にPMIminiを割り出せばいい。平均気温が16度で、体長が10mmだと、下図の16度の赤線と体長10mmの線から下に伸びる破線をたどって60時間と割り出せる。

 

 しかし平均気温の変化が大きい場合、このままだと誤差が大きくなる。精度を上げるために1日毎の体長変化を逆にたどる。まず、測定した体長が12mmで、測定の2日前までの平均気温が12℃だとすると、12度の赤線を左に48時間さかのぼって2日前の体長は9mmと割り出せる。さらにその前数日の平均気温が18度だとすると、体長9mmに育つには70時間と割り出せる。さらに卵期間も別に測定されており、18度で20日。以上よりPMIminiは合計で20+70+48時間=138時間と計算される。