昆虫を手がかりに死後経過時間(PMI)の推定が他の手法よりも優れているという研究がある。Kashyapa & Pillayb, 1989は警察の調査により死亡日時の分かってる遺体に関して、昆虫学的手法と体の死後変化に基づく手法でPMIを求めたところ、昆虫学的手法の方が優れていた。Franceschettiほか、2021でも、同様の手法で昆虫学的手法と遺体の腐敗具合から求める手法を比較して、昆虫学的手法が優れていた。ただしウジの成長から求められる時間は死後からではなく産卵(出産)からの時間なので、死後経過時間よりも短いことがあった。
Amendt, et. al, 2007の法医昆虫学の実践法を纏めた論文では、「死後1~3日目(死後早期)に解剖学的手法で正確な結果が得られたとしても、それ以降は遺体に付着した昆虫学的証拠がより重要になり、死後数週間から数ヶ月までの経過時間を示すことができる。」と書かれてある。
また、AAFS2022(米国法医学会議)のH107:Estimating the Portmortem Interval (PMI) Using Decomposition Scoring Systems: A Comparative Study(848ページ)によると、死後50日未満なら昆虫学的手法、50日から100日ならTDS(総分解スコア)を用いた手法が信頼性が高かったそうです。ちなみにTDSは身体のさまざまな部分の死後変化をスコアリングしたものです。ただ50日以上についても法医昆虫学的手法は改善の余地がある。蛹内部の変化や、遺体に虫が来るまでの日数の研究が進めば精度は上げられる。
ちなみに医学的手法では、直腸温度が手がかりになる。死後10~20時間くらいまで比較的直線的に下降するが、その後気温と同じくらいに低下すると変化せず、当てにならない。その他、角膜混濁、死斑などがあるが、PMIを推定できるのは1,2日まで。腐敗具合からの判定が役立つのは死後2日以降だが、上で述べた研究結果からすると昆虫学的手法の方が精度が高いと考えられる。ただし昆虫の少ない冬の時期は、法医学会的手法にとって苦手である。
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文献についてはGoogle スプレッドシートにまとめてあります。